今日は女房の○○歳の誕生日だ。
我が家では誕生日だからといってわざわざどこかへ出かけて祝う、というということはは滅多にない。ただ、今年の夏、偶然にも私の誕生日に
アラン・デュカスのオーベルジュで祝ってもらったので、女房としても「私もデュカスのところで!」という気持ちになっていたようで、帰国してからというもの、事あるごとに「私はベージュトウキョウね。プレゼントいらないからここでやってね」と私を脅し続けてきた。「ベージュ東京」といえばディナー・コースが最低でも17000円である。一回の出費でこの金額はかなり痛い。ワインを入れて二人で5万円は痛い、痛すぎる。
ところが、先月の初めに青山にアラン・デュカス単独経営の「ブノワ」というビストロがオープンし、ここもそこそこの値段を覚悟しなくてはならないが、「ベージュ東京」に比べディナーコースの最低料金がかなり安いのだ。ここはどうかと提案してみると、女房は「ベージュ東京」に関して友人からあまり良い噂を聞いていなかったらしく、即座にOKしてくれた。ホッ!
誕生日の当日、予約を入れた6時半に女房と息子とで出かけた。まずはシャンパーニュで「ボナイヴェルセール!」をし、メニューを検討。アミューズはクリームチーズのパテとタプナードをサクサクとしたもの(名前は聞いたが忘れた)につけて食べる。タプナードはプロヴァンスで食べたものと同じで素晴らしい味である。クリームチーズのパテももちろんイケル。
注文は前菜 ou パスタ・魚料理・肉料理・デセール ou フロマージュの11000円のコースにした。
ワインはそれぞれの料理に合わせてプロヴァンスの赤と白をお願いした。
ここのスタッフはとても感じが良い。プロヴァンスで経験したのと同様、とてもフレンドリーな接客である。お料理の写真撮影の許可を求めたら、「どんどん写してください!あとでお客様のお写真もお申し付けくださいね」と笑顔の返事に思わずにんまり。普通は可否だけなのに・・・気持ちが良い。
前菜かパスタのどちらにしようか迷ったのだが、3人とも前菜を注文。内容はおまかせで、それぞれが異なる2種類の前菜を用意してくれるとのこと。
★前菜(私):「鴨のコンフィ、ビーツとハーブのコンソメ」「野菜のテリーヌ、ピスタチオのコンディモン」
コンソメの中に大好物の鴨のコンフィが泳いでいる。このコンソメ、味はいたって淡白だが、奥深さを感じさせてくれる。
野菜のテリーヌは野菜の美味しさを前面に出すような味付けである。この野菜は本当に美味しくて、何度食べても飽きのこない味である。もっとたべたいよ~!!
★前菜(女房):「ヒメジのエスカベーシュ、マスカットビネガー風味」「カポナータの半熟玉子のせ」今年の夏のフランス旅行で何度も食べて、女房が味をしめた「ひめじ」である。彼女によると酸味が調度よく、これも美味しかったそうだ。オネダリしたが、そく却下される。
カポナータに半熟玉子をのせるという技(というほどのものではないが・・)も今回のフランス旅行で仕入れてきたものである。これもオネダリしたが、ソク却下。カポナータと玉子の相性が抜群だったそうだ。玉子の味はひと味もふた味も違うものであった、そうだ。
★前菜(息子):「地タコとズッキーニ 甘酸っぱいソース」「栗のブイヨン ブルビチーズ」息子は生タコをフガフガと喰らいつきながら、うめー!を連発している。どういう風に旨いのかと尋ねても、ボキャ数の少ない息子は、とにかくうめー!のみ。まあ、しょうがないか・・・。
次に栗のブイヨンをひと口啜ると、「なんかビミョー」を連発する。ひと口食べてみると・・・確かにビミョーな味である。それではと、私の鴨のコンフィのコンソメと交換してあげることにした。
で、ビミョーな栗のブイヨンの残りを食べることになったのだが、食べ進むにつれて「ビミョー」が「まいう~♪」に変わってくるから不思議である。はじめは気になっていた栗を漉したときのザラザラとした食感と栗独特の苦味とが旨みに変化するのだ。
★魚料理(女房・私)「的鯛のプランチャ、じゃがいものフォンダンとセベット添え」前菜を食べてみての感想は「味付けは淡白だが未経験の不思議な美味しさ、素材は申し分なく、その良さを十分に堪能できた」というものであった。
そして、この魚料理も淡白、素材良し、満足である。このお店は「ビストロ」と自らを位置づけており、調理法もヨーロッパ(特に南欧)の良さを採り入れたものが多い。先ほど登場した「カポナータ」はイタリア料理であるし、「プランチャ」はスペイン料理の調理法である。
今日はこの時点ですでに2万歩は歩いており、発汗によって体内の塩分が不足していたために、この料理の塩分をほとんど感じない。そこで、塩を振りかけて食べたのだが、その塩の容器は塩がいちどきにドバッとでないように工夫がされているものであった。しかも、その塩はマイルドで甘さすらも帯びているのだ。心憎い。
★魚料理(息子):「車海老、野菜のバイヤルディ添え」息子はまたしてもフガフガ喰らいをしながら、ウッメー!を連発している。無理やり横取りをしようとしたら、獲物をさらわれた動物のような目つきで睨みつけてくる。私が大蔵省なのに・・・。さすがに息子もそれを感じたのか、海老の下にしいてある野菜を少しだけわけてくれる。・・・良質の海老の味噌をうまく溶かし込んだソースはまさに絶品である。
魚料理に関しては息子のほうに軍配が上がってしまったようだ。
★プロヴァンスの白ワイン:「シャトー・ラ・カリッス」(7500円)PONTEVÉS)ニース出身のギャルソンに薦めてもらったプロヴァンスの白ワイン。生産地はリュベロン山脈のなかにあるポンテヴェ。このシャトーのまわりにはラベンダーの花が咲き乱れている。
味はすっきりとしているのに、濃厚な味わいである。プロヴァンスの太陽がその中に宿っているような・・・そんなワインであった。
エチケットが欲しいのでワインのボトルを帰りに持たして欲しいとお願いしたら、このように「ワインラベルレコーダー」で丁寧に剥がしてサービスしてくれる。ささいなことではあるが、こんなところにもデュカス氏のオスピタリテが現れているようだ。
★肉料理(私):「ドンブ産小鴨のソテー、ドルチェ・フォルテソース、小かぶのフォンダンとイチジク添え」鴨の薄切り肉をちょっと甘めのソースにつけて食べる。・・・あは~しわわせ~♪である。ソースは控えめな味で、その分、鴨の旨みが引き立つ。いつぞやニューオータニの「ラ・トゥール・ダルジャン」で食べた鴨よりも肉の旨みを感じるような気がする。写真にははっきりとは写ってないが、写真奥にあるイチジクの煮たものと合わせてもいける。ワインが進んでしかたがない。
★肉料理(女房・息子):「子羊の背肉の”ア・ラ・ブロッシュ」、エスカルゴバター風味の野菜のソテー添え」女房は子羊を食べながらしきりに「このラム、今までに食べた中でイチバン美味しいかもしれない」と婉曲表現をする。彼女の場合「~かもしれない」というのは断定表現なのだが、なんで「must」ではなく「may」を用いるのか謎である。美味しいのならなぜ「いちばん旨いにちがいない!」と言わないのだろうか?(←こんな風に言う人はいませんな)
息子は今回はうめー!を言わない。「うめー!」の最上級は彼の場合は「無言」かつ「またたく間」ということになるようだ。私が鴨料理を四半分も食べないうちに、彼の皿は磨いたようにきれいになっていた。まったく、まだまだ、ガキんこである。
私も子羊を約1立方センチメートルほどもらったが、確かにこれは私が今まで食べたなかでイチバン美味しい・・・かもしれない。
★プロヴァンスの赤ワイン:「Vignoble de l'Abbaye de la Cell」(6100円)このワインは今年の6月に宿泊したプロヴァンスの
この畑で収穫されたぶどうで造られている。
白ワインを買って帰ったがもったいなくってまだ飲めないでいる。
今飲んでいるワインのルーツを実際にこの目で見てきているので、贔屓目に見てしまうせいもあるのだが、この赤は酸味、香り、馥郁しさ、どれをとってもサイコー♪であった。現地で18ユーロ、このビストロで6100円。価格設定は良心的である。
料理はこれでおしまいだが、この店の料理はソースの味付けを強烈にし、その美味しさで素材を食べさせるトラディショナルなフランス料理ではなく、あくまでもソースは素材の黒子であり、その素材の良さを引き出すために存在する。従って、コッテリ系の好きな方には物足りなく感じるのではないかと思われる。
私のような年齢に達すると、こういう淡く繊細な味付けが嬉しいのだが、というか、あの重いフランス料理を受け付けるだけの胃力はもうないようだ。
★フロマージュ(私):「地中海のチーズ3種」甘いものが最近特にダメになってしまった私はデセールのかわりにチーズをもらった。すでにボトルの赤ワインは底をつき、グラスでワインを所望。銘柄は憶えていないが、ローヌの濃い目の赤をもらった。で、チーズとのマリアージュが大成功!チーズは牛と羊とやぎの3種類。どれもこれも臭すぎて、なおかつ旨すぎて、ワイン1杯だけでは足らなくなって、同じワインを追加!で、ヴィーヴ・ローヌ!と叫んでいたそうだ。(←記憶になし)
★デセール(女房・息子)美味しかったそうだ。が、減量中の私は食べていないので味はわからないし、女房と息子がデセールを食べていたという記憶が映像として蘇ってこない。瞑想モードに入っていたものと推測される。(←迷走モードのまちがいでは???)
★ディジェスティフ:マール(私)とヘレス(息子)食後、ひとつ下の階でディジェスティフタイム。マールの強烈なアルコールに酔いしれながら、ほんわかとした雰囲気の中で女房や息子とたわいもない話をしながらほくそ笑んだり、遠くに暮らす娘の健康を祈ったり、館内散策を試みたり(←記憶ない)、
ピコさんもご覧になったピンク色の赤い(?)東京タワーを眺めたりして旨かった料理の余韻を楽しんでいた。
(翌日、東京タワーのことを女房に確認したら・・・「東京タワーなんか見えなかったわよ」とバカにされた。夢で見たのだろうか・・・謎だ。)
★サービス料はない。今どき珍しい。もっとも、その分の料金が料理やワインに転嫁されているとは思うが。
★誕生日をここでという場合は、特製ケーキは2日前までの予約が必要。
今回は前日にその予約をしたために、生憎、女房のための「ばバースデイ・ケーキ」は作ってもらえなかった。このことで、食事中に険悪なムードになるという一幕もあった。息子の仲立ちのおかげで事なきにいたったが、まさに「子は鎹」である。
★ドレスコードは特にないが、短パンとサンダルは不可である。
★予約は早めに。といっても、私が予約をしたのは5日前だが。但し、この日は満席の盛況であった。
★フランスでもほとんどのレストランがそうだが、コーヒーはコースには含まれておらず別料金である。(エスプレッソが630円)
★誕生日には希望すれば写真撮影をしてくれ、ブノア特製の色紙にメッセージとともにその写真を貼付してプレゼントしてくれる。もちろん無料である。
★ここのトイレは一見の価値がある。実際に私も入ってみたが・・・残念ながら記憶にない。