やってみたいことがあった。
平日のまだ陽が落ちきらぬうちから、蕎麦屋で気だるさを漂わせながら冷や酒を飲むことである。
昨日、5時過ぎに会社を抜け出し、旗の台にある
「百々亭」(ももてい)でやりたかったことを実行に移す機会に恵まれた。
ビールではなくいきなり冷や酒を飲る。
肴は突き出しの2品である。
冷や酒をチビチビと啜りながら、仕事をさぼってしまったという罪悪感に駆られるのがなんともいえず心地よい。
と同時に、この時間に必死に働いている人々に思いを致し、ささやかな優越感に浸るのもまた気分がいいものである。
一人だけで冷や酒をなめながら「揚げ竹輪」を齧りかじりして、小学生の時に給食で出されたおかずの数々を思い浮かべては、過去へのノスタルジーにすっぽりと包まれるのもいい。
蕎麦豆腐を舌の上でころがしながら、犀星の千曲川の情景を頭に描き、しばしの旅情にひたるのもまたいい。
もう冷や酒は3杯目だ。
それでも思考と感情の旅は果てしなく続く。
厚焼玉子にカディスの広大なる大西洋の情景が喚起せられ、地鶏の串焼きに今は亡き畏友、如月小春の不在を嘆かわしめられる。
そばきゅうを食べ終わる頃にはすでに5杯目の治助は底を尽き、もう1杯くらいならと蕎麦屋のオヤジにお願いしようとした、まさにその刹那、
いいかげんにしなさいよ!!!(怒)
聞き覚えのある声である。
聞きたくない声でもある。
いきなり現実世界に戻された私は、田舎蕎麦を手繰りながら酔った頭で考える。
仕事に戻るべきであろうか、と。
そんなことなどできうるべくもないのは百も承知だが、罪悪感は未だ去ってはいないのを確認しては一人苦笑いの味をかみしめる。
これもまたオツなものではある。
ちょっとばっかりの散財に心の痛みを感じつつも、千鳥足で夜のとばりにすっぽりと包まれた中原街道をよたよたと鼻歌まじりに家路をたどる・・・・・
歩いては帰れないくせに・・・・・・
●突き出し(えのきと蕎麦の実) ●突き出し(蕎麦煎餅)
●蕎麦豆腐 ●揚げ竹輪
●厚焼玉子 ●地鶏の串焼
●そばきゅう ●千曲錦「吉田屋治助」
●戸隠蕎麦 新そば! ●田舎蕎麦 新そば!
追記:「百々亭」のご主人は
恵比寿「なゝ樹」の出身である。
蕎麦は「百々亭」の方が旨いと思う。