25年前のスペインにはあちこちに乞食がたむろしていた。バルで一杯やっていても、洋服の袖をひっぱり、「お金おくれよ~」とせがまれるのだ。ところが最近では滅多に彼らにお目にかからない。昨年の11月から12月にかけてスペインを旅したとき、久しぶりに乞食にたかられた。そのときのことを紹介しよう。場所はアンダルシア地方・セビージャのとあるタブラオ(フラメンコの見られる劇場兼レストラン)を出たところである。
・・11時に幕となり表に出たら、久々に乞食に出くわす。それもしわくちゃ顔のばあさん。「お金おくれよ~」としつこくつきまとってくる。
“ No. No tengo dinero. Soy pobre.”(やだ。お金ないからやだよ。おいら貧乏なんだ)
と言うと諦めて行ってしまった。が、いつもの天邪鬼が頭をもたげ、ばあさんを呼び戻して言う、
汎著巣「住むところないの?」
ばあさん「あるよ」
汎著巣「食べるものないの?」
ばあさん「あるよ」
普通、乞食はこんな質問に”No”と答えるのが相場なのだが、”Sí”の答えになんだかおかしくなり、ばあさんに親しみを込めて1ユーロをあげてしまう。ばあさんはそっけなく”Gracias”と言うとある家の中に消えていく。見ると、なかなか立派な家であった。 (03年12月2日)