目黒から目黒線に乗りながら街並みを眺めるのと面白い。
不動前、武蔵小山と下るにつれて下町的雰囲気が濃厚になり、西小山に至りその雰囲気は最高潮に達する。
ところが、次の洗足に向かうまでの車窓からの景色はグラデーションを描きながら徐々に変化していくのではなく、一気に御屋敷街的様相を帯びてくるのだ。
洗足の次の駅の大岡山では少し下町的になるが、その後、奥沢に向かう電車は再びお屋敷群に囲まれ、ついに田園調布でザーマス的雰囲気は頂点を極める。
今日の夕飯は目黒線沿線のお屋敷街のひとつの頂点である洗足で女房と食事をした。
他の駅に比べると飲食店の数は少ないのに、どういうわけか父はハレの外食の日には洗足に連れてきてくれることが多かった。
昔の味が恋しくなり、そのうちの一つであるイタリア料理店「トリノ」に出かけた。
●「ドライトマトのオリーブ・オイル漬け」 ●「カポナータのカナッペ」
メニューを見てみると昔とは異なりかなり今風の品揃えになっている。
これも時代の流れなのだろうが、昔食べた洋食屋にあるような料理がなくなってしまったのが少し残念である。
フロアの女性に尋ねてみると、私がさんざん食べた料理を作っていた細面のおじさんは既に引退をされ、今は息子さんの代になっているそうだ。
前回ここで食事をしたのは20年以上前のことであり、そのとき先代のシェフは初老の域に達していたことを考えればしごくあたりまえのことなのだが、なんとはなしに寂寥感に囚われてしまう。
今日はお昼を食べ過ぎてしまったので注文は少な目にした。
前菜にトーストしたフランスパンにカポナータを塗って食べた「カナッペ」はなかなかいい味をしている。
息子さんもなかなか良い腕をしているようだ。
●「ほたるイカと菜の花のパスタ」 ●「アニョ・ドゥ・レの香草焼き」
プリモは今が旬のほたるイカと菜の花のパスタ。
味つけはオリーブオイルに塩コショウのみなのに、ほたるイカから素晴らしいエキスが出ておりフォークが止まらなくなってしまう。
パスタまでを食べてサクッと帰るつもりが、もう一品「乳飲み羊、アニョドレの香草焼き」を追加注文。
アニョドレの肉は柔らかく口のなかで溶けてしまうほどで、おまけに味がとてもマイルドでこれならあと二人前くらいは食べられそうだ。
こんなに美味しいラムを食べたのは生まれて初めてかもしれない。
●「自家製フォカッチャ」 ●「ソアーベ・クラシコ」
料理のラインナップはずいぶんと変化してしまったが、味には先代が醸し出していた昔日の雰囲気を十分に感じることができた。